転勤族妻はじめました

故郷の福岡に帰りたいと思いつつ、東京、大阪で働き、血迷って転勤族の夫と結婚し、今は石川に住んでいます。だけど意外と楽しいかも!

新人ワタナベ君

彼は、今日も寝癖がついていた。

初めて彼を目にしたのは半年前。スーパーのレジで、不慣れな手つきで商品をかごに入れる少年がいた。研修中の名札をつけたその新人は、しかしあまりにもたつくので、痺れを切らした教育係の女性に「さっきも言ったでしょ!こうだよ!」と注意を受けている。だがそれも当然だ。彼は接客に向いていない。人と目を合わせないし、声だって小さい。おまけに、前髪に寝癖がついている。ダイナミックに右上に波打つその寝癖は、もやしのように細い体のせいで、余計に目立っていた。

翌月、ワタナベ君は頼りない声で入店客に「いらっしゃいませ」を連呼していた。声を出すようにと指導されたのだろう。でもね、ワタナベ君、棒読みはダメだよ?彼のレジに行くと、「ありがとうござぃましたぁー」と、覇気のない挨拶。この子、大丈夫かしら。バイト続くかな。

しかし、どうやら彼を甘く見ていたようだ。今日スーパーに行くと、ワタナベ君は相変わらずモタモタして…ない!あれ?…私は目を疑った。彼は商品を綺麗に並べ、「ありがとうございました!」と軽快にお釣りを渡す。何よりも驚いたのは、彼が従業員の女子に話しかけていること。そんな社交性あったっけ、あんた!あ、しかも相手が笑ってる!

ワタナベ君、あんたすごいよ(寝癖ついてるけど)!

レジ早くなったよ(寝癖ついてるけど)!

女を笑わす話術まで持つのね(寝癖ついてるけど)!

成長した彼の姿に、なんだか元気をもらった。ありがとう、ワタナベ君。